安全な手術操作は伸筋腱に宿る|危険な動きの排除がスピードアップのカギ

器械の使い方

【BUYSS labo 01 / Episode 050】

たぴぞう
たぴぞう

所長!

いつになったらボクの震えを止める方法教えてくれるんですか?

所長
所長

す、すまん・・・

主催学会の裏方仕事や講演活動に追われているのよ・・・

所長
所長

少しずつ準備してるから

震えの止め方につながる過去の講義で復習しといて。。。

たぴぞう
たぴぞう

この前の復習ツイートがプチバズしてましたね😁

所長
所長

今回はこのコラムの続きで

『無意識な動き』を意識する事で安全性を高めるコントロールが出来る

って話をします

安全性の高い手術とは?

『上手くて早い』術者は何が違うのか?

手術が上手い人=手術が早い とは思いますが

どうすれば手術が『早く』なるのでしょうか?

たぴぞう
たぴぞう

動きを素早くする!

所長
所長

ではないのです。。。

動作を速くするには限界があります。
上手い人と、そうで無い人の『動きのスピード』は 実際にはさほど変わりません。
むしろ上手い人の手術中の所作は『ゆったりと感じる』ほどです。

では 何がそうさせるのでしょうか?

それは

『無駄な動き』の有無

です。

手術の大半は『剥離操作』

基本的に組織は何かしらの『層』構造をしています。

そして、手術は何かを取り除いたり壊れた構造を修復するのが目的なので
目的地に到達するまでの経路を
層を剥がしていくか
層を横断して作っていく事になります。

この層を剥がす行為が『剥離操作』であり
横断する行為が『切開・切離』です。

摘出手術においては、腫瘍や臓器の周りを剥がさなくては取り出せませんし
骨折の整復・固定でも視野や操作範囲の確保のためには正常組織をなるべく壊さないように剥がすことが求められるので

手術の大半は『剥離操作』 です

所長
所長

剥離操作のTipsについては

改めて別のコラムにまとめますね・・・

では この『剥離操作』での 『無駄な動き』とは何でしょうか??

余計なことを減らせば早くなる

もし術野が出血しなかったら?

手術は恐ろしく簡単でスムーズなハズです。

手術は大半が剥離操作と言いましたが
剥離操作のみであればほぼ出血はしません

しかし

層を超えるように走行する脈管・索状物は
層を剥離していく上で横断していく必要があります。

ここでその血管などを横断する際に

場所が特定され予め止血処理をしてからの横断 では出血しません

不意に切断して出血させた場合

場所の特定 ⇒ 適切な止血法の判断 ⇒ 止血処理 ⇒ 止血確認

という予定外のプロセスを踏むことになります

手術において
あまり上手でない術者や時間のかかる術者の『術野が赤い』のは
この予定外のプロセスを数多く行っているからなのです。

手術を早く進めるには
剥離操作において出血させないことが肝要で
言葉を変えると

適切な止血処理をしつつ進めれば早くなり
不要な出血をさせるほど手術は遅くなる

という事なのです。

これは 結果的に 安全な手術操作 にもつながります。

所長
所長

まずは

不要な出血・アクシデントを起こさないための

安全 かつ 正確な所作 を身につけましょう

欲しがるな!

本来は剥離操作について詳しく解説してからの方が良いのかもしれませんが
剥離については、『震え』同様にボリュームがありそうなのと
今からお話する内容を身につけている方が結果的に上達が早そうな気がするので・・・

所長
所長

血管の結紮・切離における所作についてから解説しますね

出血させると『詰む』シチュエーションを常に想定する

再建外科医が血管処理に気を遣うシチュエーションといえば
皮弁挙上時の穿通枝処理です

剥離するだけなら良いのですが枝を処理しなくてはいけない場合
状況によっては1ミリ以下の枝を4-0ナイロンで結紮して切離する・・・なんてこともあります。

この時、糸結び中に枝を引っ張るような事があると
最悪の場合には本来残す予定だった皮弁の穿通枝を切ってしまう という事にもなります。

穿通枝の結紮の場合
穿通枝に『糸をかける』必要があるため
必ず 穿通枝の下に糸を通す 事をしなくてはいけません

こんな感じでモスキートなどの鉗子を索状物の下に通して
助手の差し出す糸をつかみ
器械を手前に引いて糸を通す
 という作業を行います

所長
所長

この作業を
如何に安全に行うか?のための方法論が今回のテーマです

たぴぞう
たぴぞう

前振り なっが!

つかむ と 引く に潜む危険

無意識にやっている事かもしれませんが

モスキートなどで剥離をする動き
伸筋腱を緊張させつつ器械を開く動作のため
充分に伸筋腱ブレーキが効いて 屈側への動きをコントロール下に置くことが出来ます。

閉じる動作ではどうしても屈側に動きがちです
開くときには先端が屈側によれることがありません

『つかむ』(手を閉じる)動作では屈側に動く ことを知っておく必要があります

この前提をもとに
糸をもらいに行く動作をもう一度考えてみましょう

この後、糸をつかむと
手は屈側に動いて 血管に引っ張る力をかけてしまう 可能性があります

さらに

↑↑↑この図からも分かるとおり
自分の手が下側に入るため
思った以上に 器械が『立った』状態で血管の裏面を通過します

この状態で屈側に動くと・・・

容易に血管を引っ張ってしまいます!

『無意識』の安全化

この段落のテーマにあった『欲しがるな!』というのは

師匠に言われ続けた

『ちょうだい!の手で糸を受け取りに行くな』 という意味だったのです

所長
所長

一昔前の手術手技原理主義者たちは

メチャクチャ所作に厳しかったんですよ・・・w

たぴぞう
たぴぞう

でしょうね

所長のうるささ見てると分かりますwww

では どのように受け取るのが良いのでしょうか

所長
所長

無意識に屈側に動く という基本を踏まえて

意識しないと動かせない方向に危険なモノを持っていきましょう

血管などの索状物の下にモスキートなど鉗子類を通して
糸をつかむ ⇒ 手前に糸を引き抜く

というアクションの際に
どの動きが危険かを考えてみましょう

このように
『ちょうだい!』の手で受け取りに行くと

屈側に動く危険性 をはらんでいるのが分かりますね

では
モスキートなどをいわゆる逆手に持って
手掌を下向きに操作してみるとどうでしょうか?

この形では 血管が伸筋腱側(背側)にきていますよね

下に押しつけるイメージで血管の下を通しつつ
鉗子を開く(背側にはブレない)
糸をつかむ(動くとしても血管から遠ざかる方向)
糸を引き抜く(手首を使って抜いてきても血管側には動かない)
という一連の動きの中で

無意識の安全地帯 が確保されます

しかも 手が邪魔にならないので
鉗子類が立つことなく、水平に動かせるのも↑↑の図から分かりますよね

必ず手掌下向きでもらいに行きましょう

たぴぞう
たぴぞう

お会計の伝票を

そ〜っと上司の前に出すイメージですねw

安全性は鍛えられる

早く正確な持ち替えが命

結局の所

こんな感じで周囲を剥離してから

こうやってもらいに行くことになるので

鉗子の向きを表裏入れ替えて 『持ち替える』 ことが必要になります

剥離 ⇒ 持ち替え ⇒ もらいに行く

がスムーズに出来ないと、結局、持ち替えをサボって ちょうだい! の手でもらいに行くことになるので危険な動きになってしまいます

早く安全な手術のためには

早く正確な持ち替え が何よりも重要です

所長
所長

また改めて『持ち替えのコツ』をお話しましょうか・・・

それまで自分なりに、どう持ち替えるとスムーズか?を考えてみて下さい。

たぴぞう
たぴぞう

所長お得意の じらし ですねw

普段の練習が手術につながる

持ち替えだけではなく

器械の持ち方や感覚になれていくためにも

普段からハサミを持ち歩いて遊び感覚で触り続けることをオススメします。

無意識のうちに持ち替えが出来るようになると
手術の安全性が格段に高まり

驚くほどスピードもアップします!

所長
所長

普段の積み重ねが重要ですヨ

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